贖罪の始まり

眠り方を忘れた街を後にし、
静まり返る住宅街を歩くと
ただ眠るだけの家に辿り着く。



いつものように、
暗闇が蔓延る部屋に
左手を滑らせ、スイッチを押すと
ポッと暖かな白色球の光が
壁一面に広がった。



コートを脱ぎながら
溜息を一つ吐くと、
ふと目に入ったのは無残にも
上半身と下半身を真っ二つに
切り離された、
変死体が横たわっていた。



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私は恐る恐る近寄り、
体温を確かめるように
触れてみた。

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死後数時間は経過しているようだ。



隣人の平田 紗希(ヒラタ サキ)が
何故私の部屋で
亡くなっているのか。



私の頭の中で疑問が次々と
沸き上がり、膨らんでは
消えていった。



私は夫の平田氏に報せようと
家を飛び出し、インターホンを
何度も押した。



家に灯りはなく、窓の施錠がされて
いなかった為、失礼とは思いながらも
靴を脱ぎ侵入した。



部屋の至る所をくまなく
探したが気配は無く、
夫の平田 志満(ヒラタ シマ)の姿は
どこにも見当たらなかった。



私は家に戻り、
再度死体に目を走らせた。



鋭利な刃物でも使ったのか、
見事に分離されている。



直様手持ちの携帯電話を取り出し、
震える手をどうにか動かして
警察に通報した。



15分もすると、窓の外の暗闇に
赤い光がせわしなく彩りを与えた。



警部補と名乗る男が、
私に執拗に質問を繰り返した。



平田夫妻との親密さ、
近所の付き合い、評判、
私から見た私見等だ。



平田夫妻は夜遅くに
見かける事があったが、
声を掛けようとすると
挨拶もろくにせず、
そそくさと足早に
立ち去る事が多かった。



警察は内縁関係者に
容疑者を絞り込み、
程なく行方がわからなくなっている夫 、
平田 志満を重要参考人として手配した。



後日、平田 紗希の葬儀が
しめやかに執り行われ、
夫の行方がわからないまま
寂しく済まされた。



私が平凡な日常を
取り戻そうとした矢先、
重要参考人である平田志満が、
林の中をフラフラと
歩いている所で発見された。


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事情聴取の上、否認する事も無く
すんなりと容疑を認めた。


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動機は食事中に口論となり、
先に手を出された平田志満が
逆上し、ついカッとなり犯行に
及んだという事だった。



その後、遺体を切り離し、
隠蔽を試みるも、
通行人に目撃され、
隣である私の家に潜りこみ、
仕方なく遺棄し
逃走したということだった。




平田志満はその後、
殺人未遂、死体遺棄、
死体損壊容疑から
殺人罪に切り替わり、
無期懲役を言い渡された。


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この事件から数日が経ち、
私の周りからようやく
マスコミが姿を消し、
私の顔と音声を変えた映像が
流れる事もなくなっていった。



12/19
AM 7:00

玄関を出ると、
風が不気味な吠え声を上げている。



それはまるで平田志満の
悲痛な叫びと錯覚する程だった。



コートの襟を立て、
バス停を目指し、歩きながら
頭の中で反芻した。




彼は今、贖罪の始まりを
噛み締めているのだろうか。


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